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【発明紹介-008】トマトジュースの発明

今日は食品分野の特許の話をしたいと思います。

 

唐突ですが、以下の発明をどう思いますか?

【請求項1】

糖度が7.0~13.0であり、糖酸比が19.0~30.0であり、グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が、0.25~0.60重量%であることを特徴とする、トマト含有飲料。

 ※請求項2以降は省略。

 

補足すると、「糖度」は、果実飲料に含まれる果糖、ぶどう糖及びしょ糖などの糖類の含有量(糖用屈折計で測定する)を、「酸度」はクエン酸、リンゴ酸などの有機酸の含有量を、「糖酸比」は、糖度と酸度の比率を表します。また、「グルタミン酸」と「アスパラギン酸」は共にアミノ酸、その塩は食品添加物であり、食品のパッケージなどでは「調味料(アミノ酸等)」として表示されます。

 

改めてこの発明を見ると、この発明は「糖度」、「糖酸比」、「グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量」の数値範囲のみで規定された「トマト含有飲料」となります。これってすごくないですか? だって、発明の構成が非常にシンプル、これなら家庭のキッチンでも簡単に再現できますよね!

 

発明の効果は以下だそうです。

【発明の効果】

【0034】  本発明によれば、主原料となるトマト以外の野菜汁や果汁を配合しなくても、濃厚な味 わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つトマトの酸味が抑制された、新規なトマト含有飲料及びその製造方法が実現される。また、本発明の他の態様によれば、トマト含有飲料の酸味が効果的に抑制される。

【0035】  そして、本発明のうちトマト以外の野菜汁及び/又は果汁を実質的に含まない態様によれば、粘度が高く飲み難い上記従来のトマト飲料、酸味が強く飲み難い上記従来のトマト飲料、果汁飲料或いは野菜汁飲料に近い上記従来のトマトミックス飲料、及び、粘度が低く酸味が強い上記特許文献1に記載のトマト飲料、のいずれとも異なるトマト含有飲料、 すなわち濃厚な味わいでトマト本来の甘みが際立ち、酸味が抑制されており、さらには飲料形態としておいしく飲める純粋なトマト含有飲料という新たな市場カテゴリーが創設さ れるので、近年の消費者の嗜好性の多様化に沿うことができる。

 

この特許は2013年2月1日に特許第5189667号として権利が認められています。出願人・権利者は株式会社伊藤園。発明の名称は「トマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法」です。

 

こうした料理のレシピのような発明も特許発明として権利が認められるのです。発明が意外と身近なものだと感じませんか? 食品会社が一般家庭にあるキッチンのような設備を使って研究開発している光景もテレビでよく見かけますよね。そこから発明が生まれるのだから、発明の創作って意外とお手軽、と思えてしまいますね。

 

しかし、この特許権は有効性が争われた経緯があります。その争いは特許庁で行われる特許無効審判という手続の中で進められますが、その請求人はカゴメ株式会社でした。争点となったのは、発明の新規性、進歩性、サポート要件などですが、その過程で権利者は請求項を以下のように訂正しています。糖度やグルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の数値範囲を狭めたのですね。そして、特許無効審判では訂正後の権利有効性が認められました(特許維持審決)。

 

【請求項1】(訂正後:下線は訂正箇所)

糖度が9.410.0であり、糖酸比が19.0~30.0であり、グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が、0.360.42重量%であることを特徴とする、トマト含有飲料。

 ※請求項2以降は省略。

 

 しかししかし、請求人は更にその特許維持審決を不服として知的財産高等裁判所に訴えを起こしました。その結果、同裁判所はサポート要件違反を理由にして、前述の特許維持審決を取り消すという判決を下し、知財業界では大きな話題となりました(平成29年6月8日判決:トマト含有飲料事件)。

 

このように、飲料メーカーにとって自社製品の製造販売に影響するような特許ならば、こうした攻防をするのは当たり前とも思えます。ですが、もし、この発明が一般家庭のキッチンで完成してたらどうなっていたでしょう。そして、それを発明した主婦などが特許出願していたら。。そう、その主婦が飲料業界に多大な影響力を持った特許権者として猛威を振っていたかも知れません。そんな主婦がいたら少し面白いですね。

 

ただ、上述のとおり、この特許はサポート要件違反で特許が取り消されています。つまり、食品の効果(風味や官能など)を評価するためには、パネラーによる評価試験を行いますが、特許では、その評価手法や結果を明細書にしっかりと記載し、技術的効果があることの裏付けをする必要があります。それが十分でないときは、サポート不十分として権利が認められなかったり、取り消されたりするのです。そうした特許要件をクリアした形の発明をキッチンでできるかと言えば、簡単ではないのかもしれません。しかし、前記判決では、どうすればサポート要件を満たすのかの指針が示されているとも言えます。その内容をここで述べはしませんが、もし、前記の主婦が、この判決で提示された指針を踏まえて、キッチン発明を行っていけば、その主婦が特許発明を量産する可能性もゼロではないのかな、と思ったりもします。。

 

今日は“もし”の連発ですね。すみません。